あなただけ見つめてる

コンカフェ狂いのOLの日記

生誕祭は戦争なり

先日、推しとは別のキャストさんの生誕祭があった。
イベントの雰囲気が苦手なので行く気はなかったのだけれど、この日と推しの生誕祭に顔を出すと限定プレゼントが貰えるというとんでもない企画が生まれたので、顔を出すしかなかった。

いつもは店に夕方ぐらいに顔を出すけれど、その日は夜まで予定があったため、到着したのは閉店二時間前だった。
想像以上に凄い光景だった。テーブルの上に何本も載っているボトル、泥酔する人々、何度も聞こえるボトルのコール……。隣に座っているおじさんはべろべろに酔っ払い、「俺は○○くん(キャストさん)と結婚するんだ!」と延々と繰り返している。わたしもたぶん限界まで泥酔したらこうなるんだろうなあ、と一人恐ろしくなった。
わたしの推しも相当酔っ払っていた。酔っている推しに会うのは初めてだった。酔っているせいかファンサが普段の10000倍とんでもなくて、死んだ。


もうすぐ推しの生誕祭がやってくる。
悲しくもわたしは安月給のOLなので、ボトルを入れたい気はあるものの、どうしても無い袖は振れない。無理すれば一本ぐらいは入れられるけれど、推しはたぶん店で一番人気なので他のオタク達も入れまくるだろうし、肝臓が心配だし、無理をしたせいでその後推しに会いに行くお金が無くなりそうで怖かった。「せめてカードが使えればな……」と思っていた。

わたしが推し活をする上でバイブルにしている漫画がある。
平尾アウリ著「推しが武道館いってくれたら死ぬ」。女性地下アイドルグループの活躍と、それを応援するオタクたちをこれでもかというぐらいリアリティに描いた漫画。
そこまでアイドルにめり込んだことはないわたしでも、タイトルに惹かれて試し読みをしていたはずが気が付いたら全巻購入していた。
出演するオタクたちがそれぞれタイプが異なるところが、この漫画の面白さだと思う。主人公のえりぴよさんは、とにかく推しが幸せでいてくれれば何もいらないタイプの限界オタク。えりぴよさんと仲良くしている二人のうち一人・くまささんは、一度挫折を味わった推しを適切な距離で支える、アイドルオタクの鑑。基さんはガチ恋勢(このガチ恋の描き方が一番リアルで読んでて辛くなる)。辛いときも苦しいときも、推しを支え推しに支えられる彼女たちが、わたしの憧れだった。

物語の途中で、推しからボイスレコーダーにメッセージを録音してもらえる特典が出てくるくだりがある。わたしはこれがめちゃくちゃ羨ましかった。
わたしは今まで出会ってきた男の中で(推しは男ではないけれど)推しの声が一番好きだ。特に二日酔いの寝起きの声が好き
もしもこの漫画みたいに、推しから自分専用のメッセージがもらえたら、どんな辛いときも頑張れるのになあ……もちろん金は出すからそのうち何かの特典でやってくれないかなあ……と考えていた。


先日、推しに会いに行った。
ふと推しが「生誕祭の特典考えたんだけど、見る?」と聞いてきた。「いつも解禁前の情報を見せてくるのはオキニ(という名のカモ)として扱われていると思っていいのか?」という自惚れを渦巻かせながら、「どうせわたしはボトル入れられないから見ても……」とブツブツ言いつつも、見せてもらった。


さすがナンバーワン。先日のキャストさん生誕祭のときの何倍も、ボトル特典もボトルのランクもガチだった。
一番高いボトル(わたしの月給よりも高い)には、「こんなんいっぺんに叶ったらその日に死ぬわ」というような特典がずらりと並んでいた。その中に見えた、「ボイスレコーダーにメッセージ録音」の文字。
正直他の特典は命の危険があるのでそこまで興味ないけれど、メッセージ録音だけはめちゃくちゃ欲しかった。けれどその欲望を叶えるためだけに、月給以上の金を払うのはさすがに無理。人生終わる。
狼狽えるわたしに推しは囁く。「大丈夫、5万円の方もメッセージ特典あるから。ボトルだけはカード払いできるし。」

…………。

一度トイレに避難してもう一度考える。推し活を始めてから出費が増え、支払いは毎月カツカツ。けれどそれも推し活以外に好き勝手遊んでいるせい(メイク用品代、洋服代、ホテル代、飲み代etc…)なので、すべてを我慢すればなんとかなる。いづれはボトルを入れたいという夢もあったから、来年には貯金して入れるつもりだったし、来年の特典にメッセージ録音があるか、そもそも来年まで推し活を続けていられるかわからない。
ボトルを入れない分、推しへのプレゼントはなかなか高価なものをあげる予定なので、それの出費もあるけれど………。

トイレから戻ったわたしは、清々しい顔で推しに宣言する。
「5万のボトル入れます。分割払いできるならタダみたいなもんですよね」
「そうだね」

推しは爽やかな笑顔で答えつつも、目が少し引いていた。
破滅への道が開かれる。